五月雨。(にこSS)
晴天。
こんな日は、がむしゃらに歌ったり踊ったり、時には他のアイドルの研究をしたり。
いつもそうやって過ごしてきた。
でも最近は……なんて言うの?スランプ、みたいな。
なんだって一人でやっていける、今までやってこれたんだもの。
――そう、思っていたのだけれど。
”μ's”
私が一番輝けた……悔しいけど、そう認めるしかない場所。
もちろん感謝はしてる。思い出だって、思い入れだって、たくさんある。
でも……今の私にとってμ'sは……そう、『呪い』みたいなもの。
何をやったって、全然、越えられないじゃない……。
大きく溜め息をつく。
『呪い』を解く方法。
そんなの、私はもう知っている。
気がつけば電車の中にいた。
いつからだろう、車窓にはたくさんの水滴が張り付いている。
手ぶらだし、傘なんてあるわけないし……自然と顔が不機嫌を押し出してくるのがわかった。
こんな時こそ笑顔よ、矢澤にこ。
そうこうしていると、見慣れた場所に到着した。
さっきまでの雨が嘘みたいに上がってる……これも偶然ではないのかしらね。
私がこの場所に来た理由……それは。
優勝旗。
見れば、何か忘れかけているものが思い出せるような、そんな気がしたから。
部室の前までやってきた……のはいいのだけれど。
ちょっと静かすぎない……?
あれだけ言っておいて、もう廃部なんてことは……。
恐る恐る扉を開けると、ぐったりとした体勢で黙りこんでいる2つの人影があった。
…………。
アンタたち……アイドルをやるって、そういうことよ。
そうだ。私がいつも言ってきた事じゃない。
今の矢澤にこを、あの日の矢澤にこが見たら、なんて言うかしら?
優勝旗に触れる。
自分でも驚くくらい、気持ち悪いくらい、優しげな手付きだった……気がする。
話したいこともたくさんあるけれど……それはさっきから聴こえてくる、腹立たしい音色の主にでもぶつけようかしらね。
しっかり頼むわよ、アイドル研究部の部長さん。
後輩の頭をポンポンと撫でてやる。
なんていうか、思ったよりも全然恥ずかしいわね、これ。
誰もツッコんでくれるわけでもないし。
…………王冠でも載せとこ。
ピアノの音が私を呼んでる。そんな気さえした。
いつまでもこうしていられないわよ。
私はそっと音楽室のドアに背中を預けた。