音ノ木坂学院野球部 その1
この学校に来たのが、間違いだったのかも知れない。
――――2年前、私は初めてこの野球部の部室のドアを叩いた。
”これは野球部なんかじゃない”って思ったのを今でも覚えている。
ロッカーの上にはお菓子の山。こちらを振り返る先輩の手には携帯ゲーム機。
それでも私は、この野球部を変えてみせるんだって、そう思った。
私なら出来る気がしていたから。
でも、根拠の無い自信なんて無意味で、私にはどうする事も出来なかった。
部室を乗っ取っている先輩のグループが、新入生を一人いじめては辞めさせての繰り返し。
当然、その矛先は私にも向く訳で。
ただただ悔しかった。
野球がしたいだけなのに、何故こんな目に遭わなきゃいけないの?
そうして1年間耐え続けた私は、2年生になった。
新入部員と、また新しく生まれ変わった野球部が作れると思っていた。
でも、一度貼られたレッテルは簡単には剥がれてくれなかった。
悪い噂のせいで新入部員は見学にさえ来ず、顧問の先生でさえ”形式上名前を貸しているだけ”といった様子なのだ。
気がつけば、部室に来るのは私たった一人になっていた。
どんな田舎の高校だって、何人かで練習くらいは出来るものなのにね。
私がゲームの主人公なら、3年生の今からだってきっと9人くらい集められるんでしょうけど。
今年の部活動紹介にすべてをぶつけて、ダメなら辞めちゃおう。こんなこと。